文脈の中での限定合理性と神の目から見た判断
認知科学や認知システム工学の分野では、人間は必ず情報制約がある中で、文脈(コンテキスト)に沿って考え合理的に判断している。それを外部から後付で見るとエラーであると判断されることがある。これを、「文脈の中での限定合理性」と呼んでいる。 組織の不条理な行動は、これまで人間の持つ非合理性で説明されることが多かったが、最近は人間の持つ合理性がその原因であると考えるアプローチが出てきた。組織(行動)経済学の3つのアプローチを示すが、取引コスト理論、エージェンシー理論、及び所有権理論の3つの理論に基づいている。その共通の仮定は「限定合理性と効用極大化」である。 したがって、これからの人間を対象とする工学では、エラーの起こしやすい社会の文脈を見つけていく必要がある。つまり、エラーとは何かを分析するのではなく、エラーを起こす社会の文脈を分析する方向に考え方が変ってきている。この方向は、エラーの内容を基本的に扱う従来の人間工学の範囲を超えているから難しいのは事実である。しかし現在は、安全と人間を取り巻く環境要素との関連性の視点でエラーを分析しなければ対策に結びつかない時代になってきていると認識すべきであろう。対策は、人間の持つ合理的な特性に合わせるべきである。